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今回は電気化学のネルンストの式についての解説です。
ネルンストの式は化学を学ぶ上でつまずきやすい分野なので、
関係が深い電気化学の基本をおさらいしながら解説していきます。
酸化還元 → 電気化学 → ネルンストの式 と順を追って解説していきます。
わかりやすく解説していきますので、ぜひ最後まで読んでみてください。
酸化還元の基本
亜鉛Znと銅Cuを酸化還元を利用した電池にダニエル電池と呼ばれる電池があります。このときの半反応式を表すと
\(Zn→Zn^{2+}+2e^-\) ①
\(Cu^{2+}+2e^-→Cu\) ②
となり、①のようにZnから電子をとられることを酸化といい、②のように電子を与えられることを還元といいます。
また、以下のような分子式のNの酸化数を求めなる場合、
\(NO^2-\)
Nの酸化数をxとして、-1 = (-2)×2 + x から、x=3とわかります。(酸化数は+3)
電気化学
電気化学の式
実際のダニエル電池は、二種類の電解質溶液が使われています。一般的に酸化される方が左側に配置されて、そのときの電池式は以下のように表されます。(aqは水溶液であることを示します。)
\(Zn|ZnSO_4(aq)||CuSO_4(aq)|Cu\)
電極における標準電極電位について
ダニエル電池のZnとCuはそれぞれ電極といい、酸化される側(Zn)は正極、還元される側(Cu)は負極といいます。
この電極には、酸化還元の起こりやすさの基準として標準電極電位(E0)という値が存在します。例えば、ZnとCuの標準電極電位は次のようになります。
\(Zn^{2+}+2e^-→Zn\) 標準電極電位 -0.763V
\(Cu^{2+}+2e^-→Cu\) 標準電極電位 0.337V
標準電極電位の基準は、標準水素電極を0としたときの差を基準に定めています。つまり、水素をHからH+にするときに必要な電圧(V)を基準としているわけです。
また、高校化学でイオン化傾向(Li,K,Ca,Na,Mg…)を覚えさせられたかと思いますが、これは標準電極電位の小さい順にならべられています。
標準電極電位から起電力を求める
電池の起電力を実際に求めてみましょう。今回は、上で説明したダニエル電池の起電力を求めてみます。
まず、ZnはE0が-0.763Vに対しCuは0.337VなのでCuの反応が優先されます。
\(Zn→Zn^{2+}+2e^-\)
このときに2e–をCu2+が受け取るため、
\(Cu^{2+}+2e^-→Cu\)
というように反応が進み、これを一つの式で表すと
\(Zn+Cu^{2+}→Zn^{2+}+Cu\)
よって、0.337V-(-0.763V)=1.1Vが起電力となります。
ネルンストの式
いよいよネルンストの式についての説明です。これまで、「Znがイオンになるときの標準電極電位が -0.763Vである」というのは、298.15K下での話でした。
これが標準状態以外の条件下だと電極電位は変わります。そんなときでも、電池の起電力の値が求められるのがネルンストの式になります。
E = E0 + \(\frac{RT}{zF}\)lnK
E0とは298.15Kでの起電力、Kは平衡定数、Fはファラデー定数、Rは気体定数を表します。この式により任意の温度での理論的な起電力を求めることが可能になります。
zとは、反応にかかわる電子eの数で、ダニエル電池ではCu2++2e–=Cuのように2個の電子がかかわっているのでz=2となります。
練習問題

ネルンストの式についての計算について紹介しました。実際に問題で出るとどのような出題をされるか見ていきましょう。
半反応式のネルンストの式
例題 次のネルンスト式を求めなさい。Fはファラデー定数、Rは気体定数とする。
①Ag++e-=Ag
②Cr2O72-+14H++6e-=2Cr3++7H2O
解き方
①
関与している電子数は1個なのでz=1、平衡定数Kは[Ag+]/[Ag]より、
E = E0-\(\frac{RT}{F}\)ln\(\frac{[Ag+]}{[Ag]}\)
純粋固体中Agは濃度100%であり、活量は1と考えられるので
E=E0-\(\frac{RT}{F}ln[Ag^+]\)
②
関与している電子数は6個なのでz=6、平衡定数Kは[Cr2O72-][H+]14/[Cr3+]2、水溶液内の平衡に関してはH2Oは平衡定数内に含まれていると考えられるので
E = E0-\(\frac{RT}{6F}\)ln\(\frac{[Cr_2O_7^{2-}][H^+]^{14}}{[Cr^{3+}]}\)
電位の計算
例題 次の溶液の電位を計算しなさい。(EFe0=0.771V, EMnO4-0=1.51V,イオンの活量を1とする。)
①0.0010mol/L Fe3+と0.010mol/L Fe2+を含む溶液
②0.0040mol/L MnO4-と0.0020mol/L Mn2+を含むpH5.0の溶液
解き方
①
イオン式は、Fe3++e–=Fe2+なので
E = EFe0+\(\frac{RT}{zF}\) ln \(\frac{[Fe^{3+}]}{[Fe^{2+}]}\)
= 0.071+\(\frac{2.303}{1}\)log\(\frac{0.0010}{0.010}\)=0.071+0.059log0.1
= 0.071-0.059=0.712
電位は0.712V
②
イオン式は、MnO4–+8H++5e–=Mn2++4H2Oなので
E=EMnO4-0+\(\frac{RT}{zF}\) ln \(\frac{[MnO^{4-}][H^+]}{[Mn^{2+}]}\)
=1.51+\(\frac{0.059}{5}\) log \(\frac{0.0040×(10-5)^8}{0.0020}\)
=1.51+\(\frac{0.059}{5}\) log(2.0×10-40)=1.51+0.0036-0.472=1.04
電位は1.04V
ネルンストの式の適用
例題 活量を濃度で仮定できるとき、[Fe2+]=0.010mol/L-1, [Fe3+]=0.0010mol/Lの次の電池の25℃での起電力を求めよ。(活量αCl=1、EFe0=0.771V、EAg0=0.222Vとする。)
Ag|AgCl|Cl-1||Fe3+,Fe2+|Pt
解き方
左の還元反応 AgCl+e–→Ag+Cl–
右の還元反応 Fe3++e–→Fe2+
であるので、それぞれe–が消えるように代入してみると
Ag+Cl–+Fe3+⇄Fe2++AgCl
鉄イオンの活量を濃度で依存すると個体の活量が1であることので
E=E0+\(\frac{RT}{zF}\) ln \(\frac{[Fe^{2+}]}{[Fe^{3+}]×α]}\)
=(0.771-0.222)-0.059log\(\frac{0.01}{0.001×1}\)
=0.549-0.059×log10=0.49
起電力は0.49V
まとめ
今回は無機化学におけるネルンストの式について紹介しました。
イメージしにくい分野なので、参考書に載っている計算問題を中心に繰り返し解いてみてください。
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